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パラダイム

中山茂著『パラダイムと科学革命の歴史』(2013年、講談社学術文庫)が、とてもおもしろいです。
パラダイムという言葉がよくわかるとともに、科学が「絶対的真理」として存在するのではなく、社会による認知や受け入れによって存在するものであることが、よくわかります。バビロニアと古代中国から説き起こし、平易な言葉で科学の進歩とは何かを説明してくださいます。
同じく講談社学術文庫の、野家啓一著『パラダイムとは何か』(2008年)も読みましたが、野家先生の本はクーンとパラダイムの解説であるのに対し、中山先生の本は、パラダイム転換と通常科学から見た学問の歴史です。いろんなことを考えさせてくれます。例えば、学閥と学派はどう違うか、大学は学問の進化を進めるのか阻害するのか。
私は、この本を読みながら、「ものの見方の枠組み」「組織での発想の転換」などを考え直しています。もっと早く読むべきでした。でも、このような文庫本の形になったのは、先月ですから、仕方ないですね。お勧めです。社内で改革を唱えつつ、実現せず不満を持っている方に、特にお勧めです。
パラダイム」という言葉は、アメリカの科学史学者のトーマス・クーンが1962年に唱えた、科学史での概念です。クーンによれば「一般に認められた科学的業績で、しばらくの間、専門家の間に問い方や解き方のモデルを与えてくれるもの」です。
パラダイム転換や科学革命は、これまでの科学者の間での通説を壊し、新しい見方を提示します。天動説から地動説への転換のようにです。パラダイムの転換に成功すると、続く学者たちは、その枠組みで実験や観察を繰り返し、より精緻なものとします。クーンは、それを「通常科学」と呼びます。
クーンは、後にこの説を捨ててしまいます。しかしクーンの手を離れて、パラダイム転換という言葉は科学史以外でも用いられ、有名になりました。極端な場合は、「通説になったものの見方」としてです。いろんな分野で改革派が「旧来の考え方を、打破しなければならない」として、パラダイム転換を唱えるのです。経営学や評論で、多用されます。私も、よくこの意味で使っています。
この項続く。

経済関係が制約する外交

昨日、日本の部品が中国に輸出され、加工されてアメリカに輸出されていることを紹介しました。これは、外交や安全保障関係にも、重要な要因となります。
フォーリン・アフェアーズ・リポート』(日本語版)の7月号で、リチャード・カッツ氏が「経済相互依存で日中紛争を抑え込めるか」を書いています。
そこでは、尖閣列島を巡る日中間の外交緊張関係によって、中国の日本からの輸入額が大きく減少しているが、決定的なボイコットに至っていないこと。中国が日本から輸入する製品の60~70%は機械や部品で、これを止めると中国経済そのものがふらつき始めること。IMFの報告では、中国の対外輸出が1%伸びる毎に、日本からの輸入が1.2%増えていることを紹介しています。
また、5年前、中国から輸出されるローテク製品の価値に占める輸入パーツの割合は22%程度だったのに対し、情報・コミュニケーション機器の場合は50%になります。そして中国の輸出品に占めるこれらハイテク製品の割合は、大きくなっています。
カッツ氏は、次のような目次で、議論をしています。
ナショナリズムか経済相互依存か。日本が支えるメイド・イン・チャイナ。経済が支える平和。
もちろん、経済関係だけで外交政策が決まるわけではありませんが、国家首脳がそれを要素に入れなければならないことは、間違いありません。半世紀前までは、経済・資源を巡って戦争が起きましたが、現在の先進国間では、経済の相互依存が戦争を抑止することもあります。
これには、経済の相互依存が大きくなってきたこともありますが、経済を一国が囲い込むものと見るのか、他国との相互依存と見るのか、その見方が変わってきたのだと思います。
詳しくは原文(英語はこちら)をお読みください。

暑い

今日、最も多く交わされた会話は、「暑いですね」でしょう。東京は、昨日から最高気温が35度前後になり、夜も気温が下がりません。梅雨も、明けたそうです。
昼は真夏の太陽が照りつけ、家の中でもぐったり。水のシャワーでも効果が少なく、ついに冷房を入れました。「夏は暑いものだ」と言われれば、その通りですが。
夕方には、雷を伴った激しい夕立も来ました。

付加価値で見る世界貿易

6月26日の日経新聞経済教室で、玉木林太郎OECD事務次長が、OECDが5月29日に公表した「グローバル・バリュー・チェーン報告書」と「世界貿易におけるサービス貿易の重要性報告書」を紹介しておられました。
貿易を、日本と他国例えば中国との輸出入で測り、貿易量の多さや輸出超過(貿易黒字)であるか輸入超過(貿易赤字)であるかを見ます。
しかし、例えば中国が日本から60ドルの部品を輸入し、それらを組み立てて100ドルの製品にしてアメリカに輸出したとします。日本の中国向け輸出が60ドル、中国のアメリカ向け輸出が100ドルで、世界貿易総額は160ドルです(総計、グロス表示)。
これを付加価値で見ると、アメリカでの最終需要100ドルに対し、日本では60ドルの付加価値、中国では40ドルの付加価値です。しかも、日本の付加価値60ドルは、中国向けでなくアメリカへの輸出に計上されます(純計、ネット表示)
このように、2国間の貿易額でなく、付加価値が各国をどのように移転するか、チェーンで見る見方です。
国内での生産と消費を計算する場合(国民経済計算、GDP)も、部品を買って加工して売った場合は、仕入れた額を中間投入として差し引いて、二重計上しないようにします。また、中央政府から10万円補助金が出て、それをもらった地方政府が5万円加えて、住民に15万円支出した場合も、同様です。単純に、国の支出10万円と地方の支出15万円を足すと25万円ですが、全体で見ると15万円が住民に渡っています。

今回の報告書を見ると、日本から部品をアジア各国に輸出し、それらの国で加工組み立てされて、アメリカへ輸出している構図が見えてきます。
台湾や韓国では、輸出のうち4割が国外での付加価値に依存していて、それら部品などの輸入がなければ、輸出できないことを示しています。輸入を制限すると、輸出ができなくなるのです。
このほか、各国の輸出の半分が、サービス(卸売り、運輸、通信、金融、研究開発など)です。輸出額で見ると4分の1なのですが、付加価値で見るとその倍になるのです。私見ですが、モノは輸入し加工して輸出すると、付加価値では半減するのに(純計操作)、サービスはそのまま付加価値になる(輸入したサービスをそのまま使って輸出できない)からだと思います。
日本の対外貿易を示す際に、2国間の輸出入の矢印の太さで示す世界地図がありますが、付加価値で見ると、違った地図になるのですね。

7月も忙しい

7月の第1週も、終わりました。今週も、忙しかったですねえ。国会が終了し、参議院選挙が始まって、少しは通常の仕事のペースになるかと、期待していたのですが。
各省の人事異動があり、挨拶に来てくださる方が多かったです。その場で、早速仕事の打ち合わせをしたり。
また、各省とともに、平成26年度予算要求の作業が始まっています。復興庁は、「前年通り」という概念がないので、未来の予測と、その際に必要となる経費の想定をしなければなりません。これは、かなり難しい仕事です。そして、それらの内容を決めるとともに、8月末の概算要求に向けての段取りが、必要です。締め切りに間に合わない仕事は、意味がありません。
もちろん、今年度の各種予算の執行、新たな課題への対応、さらには「新しい東北」のモデル事業を組み立てる作業と、結構盛りだくさんの仕事が待っています。
私の仕事は、それら課題を一覧表にして、各担当参事官に実行の工程表を作ってもらうこと、その進行管理をすることです。そして、その状況を大臣に随時報告することです。「前年通り」とは行かないので、決まっていることの実行だけでなく、未来予測をしながらの執行管理が重要です。
職員には、年休を取ってもらいたいのですが。「国会が終わったので、休みを取れよ」と言ったすぐ後に、「あの資料、まだできないかなあ・・」と催促しています。悪い上司です。