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被災地の復旧と課題を伝える報道

6月27日の日経新聞が、福島特集を組み、ボランティアの活動を伝えています。
岩手県と宮城県では、当初の避難所での支援やがれき片付けが1年以内で終わり、その後は被災者の生活支援、まち作り支援に活動内容が変わっています。しかし、原発避難区域では、被災者がほかの地域に避難していること、また避難指示が続いている地域も多いことから、両県とは違った状況にあります。今後、避難指示が解除され、住民が戻ってきます。すると、片付けなどの作業が出てくるのです。この記事のように、ボランティアの活動状況とその必要性を伝えてくれることは、ありがたいです。
日経新聞は29日の「地域で克つ」でも、宮城県気仙沼市の挑戦を伝えてくれています。市の主要産業である造船と水産加工について、震災を機に会社の合併や工場の集約が進んでいます。生き残りをかけての挑戦です。そこに、わかりやすい数字が帯グラフで示されています。水揚げ量は震災前の8割、金額では9割まで回復しました。しかし水産加工品の出荷額は、震災前の6割です。これをさらに引き上げることが、町の復興に必要なのです。いつも書いていますが、インフラと工場を復旧しただけでは、売り上げも町の賑わいも戻りません。
何が復旧しつつあり、何が課題として残っているか。それを、客観的かつバランスよく伝えること。「風化させてはいけない」と叫ぶより、このような記事の方が、国民に実情を伝え、被災者を元気づけ、関係者に何をしなければならないかを知らせてくれます。ありがとうございます。

復興庁の評価と今後の期待、研究者の視点

季刊『行政管理研究』2015年6月号に、寺迫剛・研究員が「集中復興期間最終年の復興庁―司令塔機能から管制塔機能へ」を書いています。発災直後から現在までの政府の対応を評価し、また今後のあり方を提言しています。ポイントは次のようなものです。
阪神・淡路大震災の教訓を生かし、発災直後の初動対応がよく機能したこと。
被災者生活支援本部が、政策決定だけでなく政策実施まで踏み込んだことが、後に復興庁の機能につながっていること。
危機管理体制から、復興対策本部を経て復興庁へと、復興体制に時間がかかりつつも移行したこと。
当初の復興庁について、「査定庁」であるという地方に寄り添っていないという批判と、逆に「御用聞き」という中央政府としてのリーダーシップを発揮していないという相反する批判があったこと。その後、復興庁が司令塔機能を発揮していること。
今後は、司令塔から「管制塔」へ機能を変えることが望ましいこと、などが論じられています。
最後の管制塔機能は、被災自治体を様々な目的地へ行き交う多くの飛行機にたとえ、復興庁をそれらに自治体(飛行機)に最適なルートを提示する航空管制のイメージにたとえています。
・・・地方ではそれぞれの市町村によって目指す復興のかたちは多様であり、その進展の度合も多様である・・・復興庁は管制塔として、それぞれの目指す方向に応じて、各府省の制度的枠組みを組み合わせて最適なルートをを示す。すでにタスクフォース方式により復興政策を総合的かつ加速化するルートが各政策領域に整備されており、「新しい東北」事業により今後も多くの新たなルートが開拓されていくであろう・・・
ご関心ある方は、ぜひお読みください。

組織の不正隠し

先日書いた「会計帳簿が変える世界の歴史、2」で、正確な会計とその公表が会社や国家にとって必須だと書き、他方で不正が後を絶たないことを書きました。日本を代表する企業である東芝の不適切会計(損失の過少計上など)が問題になっています。6月22日の日経新聞「経営の視点」で、中山淳史編集委員が、次のような指摘をしています。
・・・組織としては何重にもチェックする構造になっている。東芝はカンパニー制を採用し、それぞれ最高財務責任者がいる。その下の工場や事業所にも経理部がある。つまり、事業所経理部→カンパニー経理部→東芝経理部、さらには監査法人、取締役会と何か所も関所があるが、「現場が『見積もりは正しい』と主張すれば、反証は難しい」という・・
・・・だが、不思議な点がいくつかある。東芝だけになぜこうした問題が生じたのかだ。さらには「内部告発」とされる問題表面化の発端だ。東芝には内部通報制度があるが、最初に動いたのは金融庁だった。社内での報告体制に構造的問題はなかったか・・・
また、東洋ゴム工業では、建物の免震ゴム性能の偽装が問題になっています。こちらでは、経営陣が何度も性能不足の報告を受けながら、公表や出荷停止を遅らせていたことが明らかになりました。不正を防ぐはずの品質保証部門もデータを改ざんしていたとこのとです(6月23日、日経新聞)。

部下からの問題点の指摘を吸い上げる仕組み、あるいは組織の問題点を見つける眼、そしてそれを隠さず是正する決断。民間企業に限らず行政組織でも、管理職の大きな責任です。何度もお詫びの会見を経験した私にとって、他人ごとと思えません。

復興交付金・効果促進事業

今回の復興に際して、新しく作った制度として「復興交付金」があります。自治体の公共施設が災害を受けた際は、復旧工事を支援する国庫負担金があります。被害が大きく、自治体が負担できないことがあるからです。国が「保険」の機能を果たしているのです。しかし、災害復旧負担金は、被害を受けた施設を元に戻すことしか面倒をみません。「復旧」なのです。そこで、学校や病院を高台に移転して復旧する(復興する)ことや、街並みの高台移転工事のために、「復興交付金」を作りました。国が経費の大半を支援し、残りは復興特別交付税で支援します。
さらに、そのような「基幹事業」にあわせて、付随する事業を実施できるように「効果促進事業」という補助金も作りました。大きな金額を用意しているのですが、自治体では、まだ十分に活用してもらっていません。これまでは、自治体も復旧事業と基幹事業を発注するので精一杯という事情もありました。しかし、高台移転の工事などが進むと、まちづくりのために、様々な事業が必要になります。例えばそこまでの取り付け道路が必要だとか。そこで、効果促進事業交付金を、どのような事業に使えるか、先行事例を参考に例示しました。「効果促進事業の活用パッケージ」です。
事例をみていただくと、「なるほど、こんな事業も必要になるなあ」というのが、並んでいます。例えば、公営住宅にコミュニティ集会所を作ること、防災集団移転元地の活用など。工事の進捗状況を市民に情報提供することや、公共施設をつくる際の維持管理費の推計作業(それによって、施設規模を縮小しています)にも使ってもらっています。この効果促進交付金は、かゆいところに手が届く「画期的な制度」だと思います。また、現地の実情に応じて、このように使いよいように進化させています。復興交付金制度は、財務省から出向してきた職員が中心になって作ってくれた「傑作」です(関係資料)。

歴史は書き換えられるもの

2か月ほど前から、歴史学の本を、続けて読みました。まずは、川北稔著『私と西洋史研究ー歴史家の役割』(2010年、創元社)。それに触発されて、福井憲彦著『歴史学入門』(2006年、岩波テキストブック)。そして、E・H・カーの『歴史とは何か』(邦訳1962年、岩波新書)を再読。さらに、谷川稔著『十字架と三色旗ー近代フランスにおける政教分離』(2015年、岩波現代文庫)です。
『私と西洋史研究』は、たまたま本屋で見つけたのですが、川北先生が高校の先輩なので、読んでみようと思ったのです。内容は、玉木俊明・京都産業大学教授が聞き手となって、川北先生の研究生活を回顧した本です。ところが、読んでみると先生の経験談とともに、歴史学の意味と役割がこの半世紀にどう変わってきたかが語られています。私は、歴史学はそんなに変化するものではないと思っていたので、先生の記述に眼を開かされました。
・・・私の親友で都出比呂志君という考古学者がいます。阪大で私をずっとサポートしてくれた人で、われわれの世代ではピカ一の考古学者です。日本の古代国家の成立にかんする彼の学説がありまして、これはもうずいぶん前に彼が唱えたものなんですが、もう何十年にもなるのだから、とっくに崩れていないといかん。「だけど、川北さん、崩れへんねん。これは何かおかしい」と彼は言うんです。
僕も、ちょっと口はばったいけれども、「帝国とジェントルマン」とか言いだして、帝国史の研究会とか生活史とかいろいろやって、ある時期まではずいぶん発展して、けっこう皆さんに認めてもらうということができました。しかし、「帝国とジェントルマン」というのはひとつのシェーマなのだから、どこかで崩れるはずのものだと思っています。大塚史学というものは・・・(p201)。この項続く。