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中国経済リスク、戦前日本との類似。2

朝日新聞8月25日、猪木武徳先生へのインタビュー「世界経済、不安の正体」の続きです
「戦後、世界経済は多くの制度が整備され秩序がつくられてきたのに、なぜこのように不安定要素が増えてきたのですか」という問に。
・・・経済の基盤である自由民主主義が次第に劣化しているからです。民主主義には内在的に財政赤字を生む構造がある。政治家の生きる道は、いかに多くの人を満足させて票を獲得するかにあります。その結果、政治は時に人々の欲望をより膨らませ、資源配分をゆがめてしまう。そして、何でも税金や国家に頼ろうとする風潮が広がります。健全財政で対応できるならいいが、どの国の政府も借金を膨らませて要望にこたえようとする。これではどの国もギリシャと似た運命をたどってしまう・・・
「財政赤字を生みやすい民主主義の弱点を克服する手段はないのでしょうか」
・・・国家対個人の対立軸だけで考えたら解はありません。二つの間を調和させる何かが必要です。税金への依存が比較的少ない米国や英国では、NPO、労働組合や消費者団体のような中間団体がその役目を果たしています。たとえば日本では各省庁が受け持つ各種の統計づくりも、米英では一部NPO組織が担っている。あるいは米国の地方自治の強さも、健全な民主主義をうまく機能させようというメカニズムの一例です・・・
「政府を動かすことだけが民主主義ではないのですね」
・・・自分たちの身の回りのことは自分たちで決める。お上や国家から言われてやるのではない。民主主義を堕落させないためには、そういう独立自尊の精神が不可欠なのです。
ただし大事なのは公共精神という土台も欠かせないことです。私も市場経済は尊重しますが、皆が私的な欲求を満たそうとするばかりではいい社会は生まれません。公と私のバランスが必要です・・・
詳しくは原文をお読みください。

避難者数、20万人

全国の自治体の協力を得て、毎月、避難者数の調査をしています。8月13日現在で19万9千人と、初めて20万人を下回りました。公営住宅建設や高台移転が進んでいて、順次、仮設住宅を出る人が増えています。もっとも、まだ20万人の方が、避難しておられるということです。
住宅建設を急いでいるので、これから2~3年の間に、多くの方には恒久住宅に移ってもらえます。住宅の建設を急ぐことと、仮設住宅での体と心の健康を支援することが、引き続きの課題です。現場では、引っ越しの支援や、新しい町でのコミュニティ再建も課題です。そして、身の振り方を決めていない方も、おられます。その方の相談に乗ることも、課題です。

中国経済リスク、戦前日本との類似

朝日新聞8月25日のオピニオン欄は、猪木武徳先生へのインタビュー「世界経済、不安の正体」でした。世界経済の主役に躍り出た中国。その変調が世界経済の不安要因になっています。
「世界経済の命運を握っている中国政府は、混乱なく治めていくことができるでしょうか」との問には。
・・・中国が自分でうまく処理するのかが心配です。いまの中国は1930年代、つまり第2次大戦前夜の日本にとてもよく似ています。第1次大戦後、日本は欧米列強に遅れて準一等国になったが、経済に行き詰まった。そこを何とか打開しようと軍事的膨張が起き、戦争へと突き進んだのです。中国も世界経済に組み込まれ、準一等国になりました。だが国内では格差や環境など多くの問題を抱えている。その摩擦や不満を抑えるため、国家主義に訴えて異様な軍事的膨張を進めています。中国の経済のリスクと軍事のリスクは表裏一体です。中国が戦前の日本のような愚かな歴史をたどる可能性を軽く見ることはできません・・
先生は、もう一つ戦前日本との類似を、指摘しておられます。戦前日本は、「大東亜共栄圏」という名で、経済囲い込みを目指しました。美名と実態とのズレです。
・・・AIIB設立の目的は、建前ではアジア諸国の道路や港湾などインフラ建設に手を貸すことですが、本当の狙いは、彼らが「一帯一路」と呼ぶ欧州との物流ルートを整備し、自国の利権を確保することでしょう。彼らは自分たちのために世界があるという驚くべき野望をもっています・・・
「ユーロに啓発されて数年前「東アジア共同体」やアジアの共通通貨の可能性が議論されました。それは幻想にすぎませんか」との問に。
・・・戦前にもそういう構想がありましたね。提唱したのは、日本を盟主にアジア統一を果たそうとするウルトラ国家主義者たちです。いま日中韓や東南アジア諸国の経済統合を唱えるのは、戦後の理想主義が先走った人々です。しかしわれわれは、そうした「共同体」や「国家連合」の難しさをEUの例からまず学ぶべきでしょう・・・

猛暑はどこに行った

8月も29日になりました。「あの猛暑がどこに行ったのか」と思うくらいに、急に涼しくなりました。数日前から、パジャマを長袖にして、タオルケットを軽い掛け布団にしました。
高円寺では、今日から恒例の阿波踊りです。わが家の一つ隣の道路(裏のおうちの裏)がルック商店街で、演舞場(踊り場)です。わが家の前は、そこへの移動の通路で、踊り手さんたちが通っていきます。夜目遠目傘のうち・・失礼。17時から、元気なドラムと太鼓と鉦のビートが聞こえています。でも曇り空もあって、少し寒いですよね。17時の東京都心の気温は、21度です。

インターネットと文明

8月23日から4回にわたって、日本経済新聞経済教室に連載された「ネットと文明」が勉強になりました。インターネットがいかに文明を変革しつつあるかを、4人の研究家が論じています。25日の吉沢英成甲南大学教授の貨幣についての分析は、私の研究テーマにとっても参考になりました。
これまでは、国王などの権威を前提とした信頼に基づいた「文化貨幣」でした。円は、まさにそれです。近代においては、国家という権威・文化が基盤でした。
これに対し、情報通信ネットワークの発達により、貨幣は電子化されました。巨額の取引が世界中をデジタル通信で駆けめぐり、私の少額の預金やキャッシュカードも電子信号で保存されています。「電子貨幣」です。
そしてこの中間に、ヨーロッパの統一通貨、ユーロがあります。これは一国の権威と文化を超えた、欧州文明と主権国家が主権の一部を譲り渡した「文明通貨」です。そしてアメリカ合衆国の力と富を背景にした「世界通貨」ドルがあります。
ところが、これら国際化・電子化の反対に、「地域通貨」があります。これは文化、それも国家単位の文明でなく、顔の見える範囲の文化に支えられています。そして、電子決済と違い、「遅さ」も特徴です。
拙著「新地方自治入門」では、p213で国家機能の、世界に向けてと地域に向けての、分散を図示しました。地域の公と自治体の関係は、p232で論じました。
3日の日経新聞「衆院選、私の期待」では、佐々木毅学習院大学教授が「小さいが強い政府を」を話しておられました。
「郵政民営化した後の日本の姿がどうなるのか、改革の出口を示してほしい。『小さな政府』でいいのだが、では何が小さいのか、どの辺を小さくするのか。小さいだけではわからない。規制緩和だ市場化テストだと政府から切り離す話だけでは、企業やNPOさんがんばってね、で終わってしまう。何が目的で、どんな課題なのためなのか見えない」「民主党の10兆円歳出削減も、入り口でセールスをやっている点では同じだ。日本人は出口のイメージを失っている。右肩上がりが出口だと思っていたのが、成長が止まった途端に出口がわからなくなってしまった」
「小泉さんは政治が官僚制の枠組みの中で泳いでいた時代を抜け出し、それをたたきながら構造改革の段階に入った。問題はその段階を越えて政府をどう活用するかだ」「・・・後追いばかりでは、国民も官僚も元気が出ない。世界の先頭に立つ目標を掲げなければならない。私なら21世紀のデファクトスタンダードは日本を見よ、と言いたい。日本は少子高齢化を乗り越え・・・」
「政府はこれだけのことをやれるんだということが国民に見えなくなったのは極めて深刻なことだ。・・日本は『大きい小さい』が『強い弱い』とごちゃ混ぜになっていて、それすら整理されていない。米レーガン政権にしても英サッチャー政権にしても小さな政府は必ずしも弱い政府ではなかった。決して市場に丸投げしていない。・・」
いつもながら、鋭いご指摘です。政治家の責任もありますが、日本の将来を考えるために身分保障をしてもらっている「官僚』の責任も重大です。(9月4日)
10日の日経新聞「選択の前に政策論争を解く5」は「地方財政健全化どうする」でした。「郵政民営化と年金が主戦場になった衆院選の政策論争。そのあおりで議論が深まらなかった課題も少なくない。その代表格は地方財政だ・・・」。朝日新聞社説も「総選挙明日投票・忘れてはいけないこと」で、「郵政改革はもちろん、年金改革も子育て支援も重要なことである。しかし、それだけなら、ほかの大切なことが置き忘れられてしまう」と書いていました。
「・・全国一律型の教育を進めるのか。多少の混乱は覚悟してでも、地域に教育をゆだねるのか。ここは2つの党で大きな違いがある」
「国と地方の関係をどうするのか。小泉首相も『三位一体改革』では、分権を掲げている。政府の補助金を減らし、その分、税源を自治体に渡す。交付金を見直す。それが改革の内容だ。だが、具体論になると心もとない。選挙後すぐに決着を迫られるのは、自治体に3兆円の税源を移せるかどうかである。自民、公明両党の重点政策には、そのためにどんな補助金を廃止するかの説明はない。民主党は、補助金18兆円の廃止と5兆5千億円の税源移譲などを唱える。分権への意欲は買えるが、具体的な道筋は描けていない」。
指摘の通りです。今回の選挙は単一争点(シングル・イシュー)のみが取り上げられ、「これからの政治の全体像」が見えなくなってしまいました。政党には施策の束(パッケージ)をまとめ、どの党を選ぶか国民に提示することが期待されています。それぞれの政治家がそれぞれの争点に自由な政策を提示すると、それらを足しあげると整合性がとれない(福祉を増やすと言いつつ、減税も言うとか)ことがおこります。それを集約するのが政党、党の公約の役割です。どこかは我慢しなければならないのです。
小泉総理は「郵政改革は官から民への改革の本丸」とおっしゃっているので、小泉自民党の向かうベクトルははっきりしています。また、マニフェストはかつての公約と違い、「都合の良いことの寄せ集め」ではなくなりました。しかし、その他の争点について、与野党の対立が明確にならないのです。
地方分権については、まず、政党の公約に必ず上位に位置づけられるようになったことを、喜びましょう。また、社説や解説でも必ず上位に取り上げられるようになったことも、喜びましょう。
しかし、各紙が書いているように、全ての党が進めると言いつつ、具体論になると明確ではありません。必要だと言われながら分権が進まないのは、反対勢力が強いからです。これを進めるために、具体論が必要なのです。「マニフェストにもっと具体的に書き込み、政権を取ったら実行する」ことが必要なのです。
その点で、小泉総理がおっしゃる「あなた達は、郵政民営化を主張する私を総理総裁に選んだんでしょ」は名言です。