経済統計、官と民

7月17日の日経新聞オピニオン欄、渡辺安虎・東大教授の「コロナ第1波、ミクロデータ検証を」から。

・・・世界的に新型コロナウイルスの流行が第2波を迎えつつある。第1波の経験から何を学び、どう対応するのか。その際に最も知りたいのは、第1波が経済にどのような影響を与え、経済対策がどのくらい効果があったかだろう。
コロナ危機はこれまでの金融危機や経済ショックとちがい、経済主体による影響の異質性が極めて高い。企業であれば業種や取引相手、顧客の種類により減収幅などが大きくばらつく。個人も職種や年齢、性別、正規か非正規か、といった属性により影響度合いが異なった。

この影響の異質性を、集計された公的統計から知ることは困難だ。例えば製造業の公表数字があっても、アルコール消毒液を作る企業もあれば、自動車部品を作る企業もある。公的統計はあくまで集約した数字が公表されるだけだ。統計の基になる個票レベルの「ミクロデータ」への機動的なアクセスは、政府外には閉ざされている。

この4カ月間、コロナ危機をめぐる日本経済に関する論文などで公的統計のミクロデータを使ったものは私の知る限り存在しない。素早く発表された分析は全て民間データを使っている。東大の研究者はクレジットカードの利用データを用い、一橋大などのチームは信用調査と位置情報のデータを使った。米マサチューセッツ工科大のチームは日本の求人サイトのデータを分析した。
一橋大と香港科技大のチームは自ら消費者調査会社にデータの収集を依頼した。このプロジェクトに至っては、政府による数兆円規模の補助金の効果を分析するため、クラウドファンディングで200万円の寄付を募るという綱渡りを強いられている。
政府統計の問題はミクロデータへのアクセスが閉ざされているだけではない。行政データのデジタル化の遅れにより、解像度と即時性を兼ね備えたデータがそもそも存在していない。これらの点はすぐに改善は望めないので、当面は民間データの利用を進めるしかない・・・