小熊英二著『日本社会のしくみ』

小熊英二著『日本社会のしくみ  雇用・教育・福祉の歴史社会学』(2019年、講談社現代新書)が、勉強になりました。
その表題の通り、日本型雇用を通して日本社会を分析したものです。どのようにして、日本独特と言われる雇用慣行ができあがったか。その歴史的経緯と、要因とを分析しています。説得力があります。

「新卒一括採用、年功序列、終身雇用」が、昔からのものでなかったこと。経営者の意図で、または意図に反して、このような慣行が普及します。
もっとも、このような都市の大企業に代表されるような勤め人は、3割弱です。3割は地方から離れない人(農業、自営業、地方公務員、地場産業)、3割はその他(非正規労働者、中小企業で転職する人)です。

日本は「企業のメンバーシップ」型、ドイツは「職種のメンバーシップ」型、アメリカは「制度化された自由労働市場」型が支配的です。
日本以外では、企業内では社員は三層構造になります。上級職員、下級職員、現場労働者。そして企業を横断して、職務内容により採用や昇進がされます。企業内では差別があり、企業を超えた職務の平等があります。下級職員や現場労働者は、勤務評価がありません。
それに対し日本では、職務による差別を避け、社員の平等を目指しました。他方で、企業ごとに差別ができます。企業内では職務内容による差別がない代わりに、社内での頑張りで評価されます。

日本の仕組みは、官庁や軍隊から企業に広がり、戦後の経済成長に行き渡ります。戦後民主主義の日本的「平等観」(会社内で差別しない)、職務給より家族の生活を保障する生活給が、その背景にあります。学歴の向上(高卒、そして大卒へ)が、残っていた三層構造を壊し(大卒が現業の仕事をする)、社内平等を進めます。そのひずみは、出向、非正規雇用、女性に来ます。
この雇用の形が、日本社会のさまざまな分野を規定していきます。

ただし、新書版で600ページなる大部のものです。学術書と言えるほど、内容は緻密ですし、注の数も膨大です。この内容を新書で発表するのは、やや難があると思います。
NHKのインタビュー「小熊英二さん「もうもたない!? 社会のしくみを変えるには」」(掲載年月日不詳)が、簡潔でわかりやすいです。