周囲がつくる「あの人の能力」

菊池寛の「形」という短編小説をご存じですか。短い話で、インターネットで読むことができます。新聞で紹介されていたので、読み直しました。

戦国時代、ある槍の達人は、その陣羽織と兜を見ただけで、敵が恐れをなすほどでした。
彼は、初陣に出る若武者から頼まれて、陣羽織と兜を貸します。借りた陣羽織と兜を身につけた若武者は、大きな手柄を立てます。それを眺めて、自分の形だけですらこれほどの力をもっていることに、彼は大きい誇りを感じます。
ところが、彼自身はいつもと違う形をしていたため、敵が恐れずにかかってきます。そして、命を落としてしまいます。

仕事ができる人(Aさんとします)は、ある程度に達すると、これと同じことが起きます。他の人(Bさん)が言っても、周囲はその意見を尊重しないのに、Aさんが同じことを言うと、みんなが納得するのです。もちろん、とんでもない愚策なら、評判を落としますが。部下も交渉相手も、「Aさんが言うならよいだろう」と、収まります。これが続くと、ますますAさんの能力は高く評価されます。雪だるまのようにです。

リーダーシップにも、この要素があります。本人の能力が優れていることは必須ですが、周りがそれを評価するかどうかにもよります。部下と周囲の人が、その人の指導者ぶりを評価することが、リーダーシップです。この人について行こうと思うかどうかです。「私がリーダーだ」と叫んでも、部下がついてこないようでは、リーダーシップは発揮できません。リーダーシップは、フォロワーシップにもよるのです。
すると、良い部下を持つこと、良い部下を育てることが、リーダーシップの要点です。

小野善生著『フォロワーが語るリーダーシップ 認められるリーダーの研究 』(2016年、有斐閣)など、フォロワーからのリーダーシップ論もいくつも出版されています。