イギリスの強さ、官僚の留学記

橘宏樹著『現役官僚の滞英日記』(2018年、PLANETS)が興味深かったです。著者は、1980年生まれの官僚で(橘宏樹は仮名です)、2014年から2年間、イギリスの2つの大学院に留学しました。LSEとオックスフォードです。その間に、毎月1回、見聞きしたこと考えたことを、メールマガジンで連載しました。この本は、それをまとめたものです。

海外での体験や見聞を記すことは、かつてはよくありました。読む価値があるかどうかは、筆者の「切り口」「切れ味」によります。この本は、一読の価値があります。仮名なので、どのような経験を積んでおられるかは不明ですが、かなりの教養と学識があるとお見受けします。

私が特に興味を持ったのは、「無戦略を可能にする5つの戦術-イギリスの強さの正体」(p145)です。筆者は、「イギリスには戦略はなく、行き当たりばったりに見える。しかし、そこに強さの正体がある」と分析します。その「うまさ」とは、次の5つです。
弱い紐帯のハブ機能(旧英領植民地とのつながり)
カンニングの素早さ(他国から優良事例をパクること)
乗っかかり上手なイギリス人(人にやらせるのが上手。反対が日本人)
トライ・アンド・エラーをいとわない(とりあえずやってみる)
フィードバックへの情熱(やってみた結果を生かす)

そのほかにも、オックスフォードのエリート再生産システム、会員制クラブによる金とコネと知恵による力など、イギリスの強さを鋭く観察しています。
世界を支配した国、経済的に衰えたとはいえなお力を持っている国。世界第2位の経済大国になったものの、次の道を迷っている日本には、まだ学ぶことがあります。
お勧めです。

このような立派な内容を、匿名で出版しなければならないほど、役所の「規制」があるのなら、残念です。