地方分権改革の政治学、アイデアの実現過程

木寺元・北海学園大学准教授が、『地方分権改革の政治学―制度・アイデア・官僚制』(2012年、有斐閣)を出版されました。
本書は、2つの視点から、読むことができます。
1つは、地方分権改革です。戦後長らく安定的に(大きな改革なしに)推移してきた日本の自治制度が、1990年代以降、分権改革として変貌しました。その一連の分権改革(機関委任事務制度廃止、三位一体改革、出先機関改革、義務付け枠付けの見直しなど)が、どのような過程で実現したか、またしなかったかが、まとめられています。それぞれの改革については解説書がありますが、これらを一連のものとして、また実現しなかったものも含めて解説したものは少ないと思います。これは地方行財政学の範囲です。
もう1つは、いくつもの改革の中で、なぜあるものは実現し、あるものは不十分なものに終わったのか。これを「アイディア」という概念で説明します。行政学者や財政学者たちが提唱する改革の「青写真」は、それ単独では実際の改革に結びつきません。いくつもの改革案のうち、政府内部の意思決定過程を熟知する「主導アクター」(本書では官僚制)に受け容れられた「アイディア」だけが、実際の制度改革に結びついていくプロセスを、説明します。これは政治学・行政学の範囲です。
改革が実現した場合、あるいはしなかった場合を分析する際には、主体(担いだ人・グループ)、抵抗勢力、世論の支持、検討の場といった「権力(利益を含む)の過程」と、アイデアの善し悪し、時代の要請など「政策からの分析」があるでしょう。本書は、近年注目されている「アイデアの政治」を枠組みに、それを精緻にして、改革実現・失敗過程を分析します。(砂原庸介准教授による紹介

地方自治、行政改革にご関心のある方に、一読をお勧めします。今後、改革を進める際にも参考になります。
ところで、分権改革がこのような検証の対象となるのは、学者、官僚、自治体、マスコミなどの「政策共同体」があって、そこで改革のアイデアが出て、さらに審議会など場を経て、実現・実現しない過程が見えるからです。これらの「場」がない行政分野では、過程が見えにくく、検証しにくいです。
木寺准教授は、私が東大大学院に出講していたときの、塾頭3羽ガラスの一人です。本書あとがきで、過分なお褒めを書いていただき、こちらが恐縮しています。