日本美術の見方

田中英道著『日本美術全史―世界から見た名作の系譜』(2012年、講談社学術文庫)が、興味深かったです。
著者は、日本の古代からの美術を世界の美術史の中に位置づけることや、日本の美術史を歴史学の年代区分でなく、「様式」の発展として区分することを試みたと書いておられます。著者の考えは、必ずしも「正統」とみなされていないようですが、私には、「こんな見方があるのだ」と、勉強になりました。
日本美術の歴史書としては、辻惟雄著『日本美術の歴史』(2005年、東大出版会)があります。これは分厚いので布団の中では読めず、途中で挫折しています。田中さんの本は文庫本なので、布団の中で読むことができました(反省しつつも、仕方がないですね)。

また、作者が不明の作品について、推定を試みておられます。これまで、「作者は一人の芸術家でなく、工房で作られた」と書かれることが多かったようです。しかし、著者は、「優れた芸術は、一人の天才芸術家が作るのであって、その人の下で共同作業があったとしても、作者を同定すべきだ」と主張されます。西欧でもそうですから、これまた、「そうか」と考えさせられました。
田中さんは、自ら選んだ「特に水準の高い作品」に◎を2つ付けておられます。その選定理由を読んで「なるほど」と、また有名なのに◎がついていない理由に、これまた「なるほど」と、勉強になりました。「私の見方とは違うな」と思うのもありますが。

この本に載っている仏像や絵画を見て(合計500近い写真が載っています)、「私も、案外たくさんの作品を見てきたのだなあ」と、嬉しくなりました。奈良の仏さんは若いときによく見ましたが、それ以外は展覧会で見たのだと思います。それだけ美術展が盛んだということで(主に東京で)、素人にも見る機会が多いということでしょう。
さて、「一つだけ選べ」と言われたら、あなたは何を選びますか。難しいですね。私だと、長谷川等伯「松林図屏風」(東京国立博物館)か、尾形光琳「紅白梅図屏風」(MOA美術館)でしょうか。彫刻(仏像)では、「山田寺仏頭」(興福寺)が好きだったのですが、少し考えを変えました。東大寺戒壇堂の四天王「広目天」(飛鳥園の写真)が、厳しい性格が良く表されているので。