ペイオフ発動・金融行政の進化

9月10日に、日本振興銀行が経営破綻し、ペイオフ(上限つき預金保護による処理)が行われました。ペイオフが発動されたのは、わが国では初めてのことなので、大きく報道されています。日経新聞経済教室、15日の翁百合さん、16日の佐藤隆文教授(前金融庁長官)が、わかりやすいです。
私の関心は、市場(金融)に対して政府(行政)はどうかかわるかということと、金融危機という社会のリスクにどう備えるかということです。
普通の会社が倒産しても、それは関係者の負担で処理されます。手続や優先順位は、一般的な破産法制で決まっていて、それに沿って処理されます。しかし、銀行の場合は、これまで倒産させず、ほかの銀行に合併させて救済したり、国費を投入して保護したり、一時国有化して救うなどの処理をしました。預金も全額保護したのです。
これには、大きく二つの要因があったと思います。一つは、銀行の倒産が、次々とほかの金融機関に波及し、金融システムが機能不全になる恐れがあること。システミック・リスクです。金融はお金のネットワークなので、このようなことが起きます。もう一つは、国民の間に「銀行は倒産しない」という信仰があり、預金が戻ってこないとは考えていなかったこと、そして通常の会社と違い、取引先(預金者)が一般人で範囲が広いことです。社会不安を引き起こす可能性があるのです。
今回、初めてペイオフによる破綻ができたのは、それをするだけの条件が整った、整えたからです。この点は、佐藤論文に詳しく書かれています。

佐藤教授は、事前予防と事後処理の整合性を、指摘しておられます。金融行政は、かつてのきつい規制行政から、規制緩和が行われました。そして市場の競争に委ねるようにしたのですが、破綻した場合の処理が、一般企業と違って問題になるのです。
預金者保護・金融システム維持のために、セーフティネット(安全網)を強くすると、ずさんな経営者が出てくる可能性があります。高い利息で預金者を集め、うまくいかないと倒産させるのです。このような銀行や預金者が保護されるようでは、まっとうな競争は生まれません。そして、その費用負担は国民に押しつけられるのです。他方、安全網がないと、金融システムの危機が発生する可能性があります。
それをにらみながら、うまく制度を組み立て運用する。この20年間の銀行破綻と金融行政の経験から、日本が学んだことです。