三位一体改革55

(事務の国への返上)
先日「指定都市市長会が、生活保護に関する各月の基礎数値を国に報告することを、停止することを決めた」と書き、あわせて「事務本体の国への返上」について記者さんとの会話を紹介しました。
指定都市市長会が、資料一式を届けてくださいました。そこには、「仮に、(国庫負担割合)引き下げが強行されるということであれば、生活保護事務を続けることは困難であり、法定受託事務である生活保護事務については、国に返上せざるを得ない」「しかし、一気に返上した場合には、市民生活に与える影響が懸念される」と書かれてあります。
そして、
①準備行為として国への報告を停止する
②国への事務の引き継ぎの具体作業に入ることを検討する、としています。
法定受託事務ですから、法律的にはあり得る選択肢です。2000年に第一次分権改革を達成し、国と地方が対等になったことの効果が、現れてきています。
(地方からの提案)
指定都市市長会は、これにあわせて、「生活保護制度の抜本的改革に向けての提案」も発表しています。教育改革についても、提言しています。
これからの住民サービス事務は、国が企画するのではなく、実状に通じた自治体が問題点の指摘と解決策の提示をすべきです。これが、自治体が内政に責任をもつ姿でしょう。
指定都市市長会は、人口が22百万人。総人口の17%を占めています。これからも、どんどん提言してほしいです。
また、地域ごとに保護率に差があることについても、単身高齢者割合・失業率・離婚率などとの相関が高いこと、国民年金の未納率とも相関が高いことを分析しています。なかなか興味深いです。事務局のHPをご覧ください。(7月30日)
8月1日の朝日新聞社説は「義務教育費、分権の流れを見失うな」でした。「自治体の当事者意識は薄く、横並びの教育が全国にはびこっている。その一因として、政府が何事につけ、口を出してきたことが挙げられるだろう。
独自に少人数学級を実現し、授業日数を増やすなど、様々な試みが各地で芽生えている。自治体を励まして理念を実現する道をともに考えるのが、中教審の本来のあり方だろう。自治体が自らの負担と責任を踏まえて地域に根ざした教育行政を展開できるよう、国と地方の関係を見直し、改善を図る必要がある-。98年にこう答申したのは、ほかならぬ中教審だ」
毎日新聞は、連載「知事たちの闘い」第19回「分権と政治」を載せていました。(8月1日)
(教育論)
10日の朝日新聞「私の視点」に、三春町の前教育長が「教育の地方分権」を書いておられました。
「長年、予算を背景とした国のコントロールによって、中央依存の体質が強められていることにも原因があろう。・・・地方においては、中央の意向にただ従うだけで良しとしている長年の惰性を排する意識改革と、強い実行力がまず求められることを感じた。たとえば、ゆとりの教育の実施に際しても、県教委の役割にはこの施策の単なる伝達や指導の機関であるよりも、地域の実態調査などを通じていかに円滑に実施できるかを具体的に探る立場があったはずである」
「現職教員には、教師への信頼を取り戻すべく、さらなる意識改革を期待したい。職員組合も、待遇改善などの経済的な要求に終始するのではなく、教師が研鑽を積むべき環境や条件をいかに整備、確保するかを自らが提示し、この実現に向けて、むしろ教育委員会などを督促することこそが、果たすべき役割であろう」(8月10日)
(地方団体の攻勢)
地方6団体が、9日に「衆議院総選挙に向けての共同声明」を出しました。
「国においては、『官から民へ』、『国から地方へ』という構造改革の下、地方への税源移譲を基軸とした地方分権改革を進めてきたが、改革の後退は許されない。
今回の総選挙において、各政党や各候補者が「地方分権改革」の実現を公約として掲げ、積極的に国民に訴えていくことを強く求める。そして、選挙後の政権が、『地方分権改革』を強力に推進することを期待する」という内容です。各党が、マニフェストに分権をどのように書き込むかを、見守りましょう。(8月10日)
【小泉改革】
総選挙後の政権について、新聞が様々な予想をしています。誰が選挙に勝つか、政権につくか、政策はどう変わるかです。共通しているのは、小泉政権でないと、郵政民営化が進まないことと、もう一つは三位一体改革が進まないのではないか、という予想です。
前者(郵政民営化)は「官から民へ」、後者(三位一体改革)は「国から地方へ」の象徴です。共通点は、現在の政治権力(旧来型の自民党族議員と各省)を転換しようとするものです。そして、総理のリーダーシップがなければ進まないのです。
違いは、郵政民営化については、官から民へのシンボルであっても、すべてではないとの評価もあります。また小泉総理一人ががんばっている、との見方もあります。それに対し、三位一体改革は、これこそが中央集権を地方分権に変える骨格であり、また、地方団体全体がエンジンになっているという違いがあります。しかも、郵政は特定分野での改革であり、三位一体は包括的・全分野での改革です。(8月9日)
(地方団体の攻勢)
13日の朝日新聞「私の視点」では、増田寛也岩手県知事が「地方分権でも論戦望む」を書いておられました。
「今回の総選挙は、郵政問題だけが争点では決してない」「われわれ自治体関係者も、今回の総選挙で、各党が国と地方の税財政改革(三位一体改革)を含む地方分権改革について政権公約にしっかりと掲げ、政策論争をすることを強く期待している」
「・・小泉首相の決断で、総額20兆円の国庫補助金のうち、まず3兆円について具体的に動き出した。これに続く第2期分の改革について、各党は明快な処方箋をぜひ示してほしい」
「・・『地方案を真摯に受け止め、進めてほしい』という首相の指示が無視され、各省や族議員が一体となって権益保持を図ったことにある。霞ヶ関に漂う『三位一体改革はもう終わり』という奇妙な安心感に、どの党が毅然として対峙するのか。その実行力も問いたい」
「各党の政権公約が公表された際、地方分権改革の政策がどれくらい明確に掲げられているか、知事会としてしっかりと評価し、公表することにしている」(8月13日)
政府の依頼に応えて、16年8月に地方6団体が補助金廃止案を提出しました。各省はほとんどこれに応えず、政府与党で決定したことは、ご承知の通りです。また今春には、残る6,000億円について、再度地方案を提出しました。各省別の実現度(抵抗度)などを「地方案の実現度」に、表の形で整理しました。ご利用ください。(8月13日)