三位一体改革19

3日の朝日新聞は「義務教育費の国庫負担」と題して、浅野史郎宮城県知事、保利耕輔自民党文教制度調査会長、木村陽子地方財政審議会委員の意見を載せていました。
【官庁文学】
4日の朝日新聞夕刊には、坪井ゆづる論説委員が「官庁文学の極み」を書いておられました。3兆円目標と書くべきところ、「おおむね」や「規模」をつける意味。「検討する」の意味。官僚のサボタージュを批判しておられます。官庁文学については、拙稿「進む三位一体改革-評価と課題」の「注29」を参照してください。
「目標も責任の所在もあいまいにした表現の積み重ねの先に、どんな結果が待ち受けているのか。これから、しっかり見極めたい」とも、書いておられます。おっしゃるとおりです。
でも、このように官庁文学的表現を含みつつ、三位一体改革は進んでいます。それは「3兆円」が書かれたからです。(9月4日)
【今後の予想】
今後の予想を大胆にしてみましょう。
閣僚会議や地方団体との協議の場などがもたれ、11月には決定されるでしょう。いろんな反論が出るでしょうが、決定されるものは地方団体案と大きくは変わらないと思います(17年度分と18年度分への切り分けは必要です)。
1 政府として、地方団体に案の作成を依頼した。それを尊重しないわけにはいかないこと。総理は既に「真摯に受け止め、誠実に対応する」と言っておられます(8月24日、31日諮問会議)。大きく変わるようだったら、地方団体が黙っていないでしょう。
2 各省が反対するが、それはさほど「意味を持たない」こと。補助金廃止は各省が反対する、そして進まないので「官僚を飛ばして」、地方団体に案の作成を依頼した。この時点で官僚は「飛ばされている」のです。
3 各省の反論は、有効とは考えられないこと。各省がどんな反論をしても、補助金をもらっている地方団体が「もう要りません」「私たちに任せてください」と言っています。これを越える有効な反論は考えられません。(9月4日)
【補助金廃止で総額は増える?】
10日に、各省の予算要求が、財務省から閣議に報告されました。一般会計総額は、88兆円です。そのうち地方団体向け補助金は、今年に比べて5.8%増の18.6兆円とのことです(この他に特別会計分があります)。
なんと、三位一体改革が進んでも、補助金が増えるのです。もちろん、今年のように社会保障関係補助金が増えるということもあります。
でも、これから2年間で3兆円補助金を削減すると閣議決定していながら、要求総額が増えるのは・・。おかしいと思いませんか。
(官僚の限界)
各省官僚が、三位一体改革(補助金削減)をまじめに考えていない、ということでしょう。あるいは、考えていても行動に移せない、からです。官僚制とは、与えられた個別の目的を達成するための組織であり、全体を考えるようにはなっていません。そしてそこに属する人間は、自らの組織と資源を最大化するように行動します。官僚制と官僚は、そんなものなのです。補助金廃止の場合は、官僚と官僚制の限界がよく見えるのです。
「日本で一番頭がいい」といわれている官僚が集まった結果がこれです。内政問題は、まだ良いです。国民がその結果や負担を負えばいいのですから(でも、子孫に負担を残すことは良くないです)。しかし、国際問題では、そうは言っておられません。(9月11日)
9月11日の日本経済新聞は、「義務教育改革 課題を聞く」の連載で、梶原全国知事会長へのインタビューが載っていました。
【政治的意義】
12日の東京新聞「時代を読む」は、佐々木毅東大学長の「三位一体改革の『政治化』」でした。
「・・・政治の新たなうねりを感じさせるのは、・・・地方6団体が大幅な補助金削減案を正式に決定したことである。」「この補助金削減案は権限と財源の委譲とセットの関係にあり、『国のかたち』にかかわる重大問題である。」
「この改革には二つの側面がある。一つは委譲すべき権限や財源の内容をめぐる問題であり、・・二つ目は、この難問を処理する政治的仕組みと場の問題である。私が政治の新たなうねりとしてここで関心があるのは後者の問題である。」
「今年の『骨太の方針』において首相は・・補助金の削減案のとりまとめを地方の側に宿題として投げかけた。・・この作戦は重い政治的帰結を持つものとなった。そもそも権限と財源を掌握している側が、その委譲を求める側に決定権を一部にせよ与えるかのような対応は極めて重大な決定である。・・この背後には、中央政治・政府の曖昧な先送り体質があったことは否定できない。」
「一連の動きはあくまでも政治的動きでしかないと見ることもできるが、政治的動きに重大な責任が伴うことも事実である。首相の側が中央政府の動きをコントロールし、しかるべき成果を示すことができなければ地方の側が政治的責任を問うであろうし・・・。かくしてこれまで政治的に一見中立に見えた中央・地方関係問題は今度の新たなステップによって『政治化』し始めたと見ることができる。」
今回の一連の動きについて、政治的評価は拙稿「進む三位一体改革-評価と課題」に書いておきました。佐々木先生と大きく違わないことで、自信を持ちました。今後の動きの予想は、日を改めて書きます。(9月13日)